韓国映画「天命の城」の概要
韓国映画「天命の城」の監督・脚本・観客動員数など
【監督・脚本】ファン・ドンヒョク/代表作「イカゲーム」「映画:怪しい彼女」「映画:トガニ 幼き瞳の告発」
【音楽】坂本龍一
【配給】ツイン 2018年公開
【観客動員数】385万人
【受賞】
・2017年第37回韓国映画評論家協会賞 監督賞、最優秀作品賞(ファン・ドンヒョク)
・2017年第38回青龍映画賞 脚本賞(ファン・ドンヒョク)
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韓国映画「天命の城」主なキャストと代表作
俳優・女優(役名) | 過去の出演ドラマ・映画 |
★イ・ビョンホン (チェ・ミョンギル役)吏曹大臣 |
・映画「KCIA 南山の部長たち」 ・映画「白頭山大噴火」 ・「イカゲーム 」 ・「IRIS-アイリス- 」 ・映画「JSA」 |
★キム・ユンソク (キム・サンホン役)礼曹大臣 |
・映画「チェイサー」 ・映画「暗数殺人」 ・映画「1987、ある闘いの真実」 ・映画「プリースト 悪魔を葬る者」 ・映画「ファイ 悪魔に育てられた少年」 |
★パク・ヘイル (仁祖役) |
・映画「ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女」 ・映画「王の願い ーハングルの始まりー」 ・映画「提報者 ~ES細胞捏造事件~」 ・映画「神弓 -KAMIYUMI-」 ・映画「グエムル 漢江の怪物」 |
★コ・ス (ソ・ナルセ役) |
・「オクニョ 運命の女」 ・「胸部外科」 ・「マネーゲーム」 ・「クリスマスに雪は降るの?」 ・映画「高地戦」 |
★パク・ヒスン (イ・シベク役) |
・映画「1987 ある闘いの真実」 ・映画「密偵」 ・映画「V.I.P. 修羅の獣たち」 ・映画「ムルゲ 王朝の怪物」 ・映画「南極日誌」 |
韓国映画「天命の城」あらすじ
1636年、清が朝鮮に入り込み、首都漢陽を逃れた朝鮮国王仁祖(パク・ヘイル)たちは、敵軍に完全に包囲されてしまう。
厳冬の中、八方塞がりの状況で大臣の意見は真っ二つに分かれ、吏曹大臣チェ・ミョンギル(イ・ビョンホン)は和平交渉を望み 、礼曹大臣キム・サンホン(キム・ユンソク)は徹底抗戦を主張する。
韓国映画「天命の城」史実の流れ・背景など
第16代王仁祖屈辱の史実!三田渡の土下座を招いた丙子胡乱を描いた作品
この映画「天命の城」は、都城が舞台ではなく、すでに江華島へ逃げ遅れた第16代朝鮮王仁祖や朝廷の官僚らが、山頂の要塞のごとく建つ「南漢山城」に避難・籠城し、その山の周辺には、12万人の清の軍勢に囲まれている状態からスタートします。
「南漢山城」には、仁祖のほか、朝鮮朝廷・朝鮮兵・城内の民など1万3000人と、約50日分の食料しか残されていませんでした。
籠城の末、結局、朝鮮王である仁祖自身が、清国の臣下となる土下座、正確には三跪九叩頭の礼(※叩頭とは、額を地面に打ち付けて行う礼)を、臣下や世子など500人の目の前で、
清の皇帝ホンタイジに対し、土下座をして、地面に額を何度も叩きつける!
という王の威厳を無くすような無様な姿を見せることでこの戦を終わらせました。
死ぬことよりも、生きてその恥辱を耐えるようにと進言したのが、イ・ビョンホンが演じる吏曹大臣のチェ・ミョンギル。
そんな恥辱を味わうくらいなら、死んだ方が耐えらる!と、最後まで戦うことを進言したのが、キム・ユンソクが演じる礼曹大臣キム・サンホンになります。
できるだけ、論戦のやり取りや籠城中の経緯を史実に基づきストーリーにしたもので、派手な戦の場面ではなく、大臣の全く異なる進言に苦悩する王。
そして、一番の犠牲者は、寒空の下、ずっと外で見張りをさせられ、空腹と寒さ、最後は、砲弾などで死んでいく民の姿を哀れに描いてます。
なぜ、丙子胡乱は起きたのか?
1618年サルフの戦い
遡ること、1590年代、朝鮮は、豊臣秀吉の朝鮮出兵となる壬辰倭乱(文禄・慶長の役)により、明に出兵による援軍をだしてもらうことで明に対する恩義「再造の恩」がありました。
ところが、その後、後金(後の清国)のヌルハチに周辺国を攻撃する勢いが出てくると、明国が衰退の危機に陥り、朝鮮に対して明国に援軍の要請をしました。
その当時の第15代朝鮮王光海君は、明国と後金との中立策を取ろうと必死でしたが、「再造の恩」により、明国へ援軍1万3000人を出兵させました。
この時の戦いが「サルフの戦い」⇒詳しく見る
1627年丁卯胡乱
1623年仁祖反正のクーデーター
1624年の仁祖に対する李适(イ・クァル)の反乱
1626年ヌルハチの死去により、八男ホンタイジ(皇太極)が即位。
という両国の政権交代により、両国の関係が悪化していき、1627年にホンタイジが朝鮮に侵攻し、朝鮮に対し「後金を兄、朝鮮を弟とする兄弟国としての盟約」を結ばせました。
1636年丙子胡乱
1636年、後金の太宗ホンタイジ(皇太極)は皇帝に即位し、国号を清と改め、朝鮮に対して臣従するよう要求しますが、それを拒んだので、この「丙子胡乱」が起きたわけです。
そして、この「丙子胡乱」の中で、この映画で描かれた「南漢山城」での籠城と、「三田渡の盟約」が結ばれることになったのです。
「三田渡の盟約」には、朝鮮王の三跪九叩頭の礼のほかにも、昭顕世子と鳳林大君などの王族や、大臣の子女を人質に差し出すことや、清国への朝貢、50万人の捕虜をはじめ、
恥辱と受け入れ難い内容ばかりでした。
それは、親明派の朝廷にとっては、深い恥辱に限らず、命の保証すら危ぶまれる恐怖感をも抱くことになります。
中でも、最も恐怖を抱いたのは仁祖であり、後日、人質となった世子が戻ってくると、仁祖を廃し、世子を王にするつもりなのではないかと不安になり、人質解放2カ月後に、毒殺説と共に世子は亡くなっています。
このような仁祖の生涯を三田渡から始める韓国ドラマ「花たちの戦い -宮廷残酷史-」で、仁祖役のイ・ドックァが、本当に悔しそうに、屈辱の言葉、世子を警戒する心情を見事に演じていますので、興味ある方は、ぜひ、合わせてご覧になるといいと思います。
韓国映画「天命の城」の感想・見どころ<史実部分が一部ネタバレ>
天命の城の史実と言われる演出・朝鮮の国力
礼曹大臣のキム・サンホン(キム・ユンソク)は、城内の民(コ・ス)に援軍を呼ぶための手紙(文書)を託しますが、実際に、誰が頼んだかは不明ですが、城内の民が手紙(文書)を届けた記録が残っているそうです。
しかし、結局、どこからも城内への援軍が到着することは無く、食料は尽き、大砲の爆弾が城内に飛んでくると、戦って勝つことは難しいと断念し、仁祖は生き残るため、三田渡の盟約を結ぶことを決心します。
援軍が来なかった理由には、清国の部隊に朝鮮の勤王軍を撃退され続けたことや、援軍要請の文書を受け取らなかったことにした軍がいたこともあったようです。
仁祖の王としての威厳が無かったため、檄文を無視した武将が一部いたということも他の韓国ドラマでも描かれています。
またある時は、方々に兵を南漢山城に進軍させるための檄文を出しますが、民が朝鮮側の兵士と知らずに、檄文を運ぶ伝達兵を襲い首を切って報奨金をもらいに来ることもありました。
このような軍事力が低い点は、壬辰倭乱(文禄・慶長の役)の頃から、度重なる侵略によって、兵士や武器が減り、経済のダメージも加わり、国力が落ちたまま改善する余裕が無かったことも挙げられるでしょう。
映画の中で、銃口が歪んで上手く撃てないという声も、そのような国力の衰えた状況を伝えたかったのではないかと思われます。
民の苦しさ
城壁での戦いなどは、通常、武将の知略や勇猛な武術などが見せ場となりますが、今回は、それ以外のところで戦っている人たちにスポットを当ててあります。
やはり、戦になると、まず被害を受けるのは民になります。
清国に囲まれているため逃げることも出来ず、民が防寒もできずに城壁で守っていますが、12月から1月、厳しい寒さの年だったようなので、気温もマイナスであったことが想像できます。
そのような中で、焚火で暖をとることも許されず、貯蓄の食料が減ると、食べ物も与えてもらえず、戦う前に、凍死か、餓死か、いつ死んでもおかしくないような状況でも、文句も言えない。
そんな様子が、リアルに描かれています。
寒さが厳しい映像を撮るため、本当に雪の舞う厳寒な時期に数カ月かけて撮影された雪の積もった城壁が、当時の民の劣悪な環境で城壁を守らせていた雰囲気が伝わってきます。
寒さに震える民に、藁を支給してくれますが、馬が栄養失調になると、民に分け与えていたはずの蓆を取り返し馬のエサにします。
結局、痩せ細って死んだ馬は潰して、民に食べさせます。
「どうせなら、もっと肉付きのいい時に食べさせてくれたら良かったのに・・。」
という民の皮肉が聞こえてきます。
和睦か、決死の戦いか?
映画の冒頭で、礼曹判書キム・サンホンの価値観と主戦論の考え方を描くため、案内してくれた朝鮮の民である船頭を切り殺すところから始まります。
それは、船頭が「御駕行列(仁祖ののる車)を案内しても粟1つもらえなかったから、清の案内もした」と答えたのです。
敵の進軍を手伝うのを止めさそうと、城内へ連れて行こうするのですが、断られたため、国のためなら自国の民でも切り殺す大臣キム・サンホン。
そんなイメージから、この南漢山城で行なわれた朝廷会議の場面に変わります。
和睦交渉を勧める吏曹大臣チェ・ミョンギル(イ・ビョンホン)に対し、
恥辱を受けるよりも死んだ方が耐えられると進言する礼曹判書キム・サンホン(キム・ユンソク)が仁祖の前でそれぞれの価値観で上訴します。
価値観だけでなく、立場(派閥)が異なるため、意見も対立したまま理想論でお互いを問い詰めます。
状況が悪くなるほど、命がけな進言で対立しながら弁論する二人の大臣。
仁祖は、礼曹判書キム・サンホンの言う通り、先に戦で勝つためのあらゆる手を尽くしますが、相手は、朝鮮の2倍もの距離を出せる大砲で応戦し、全滅に近い被害を出し、吏曹大臣チェ・ミョンギルの進言を最終的に受け入れました。
この二人の進言は、実際の進言として残っており、結局、和睦交渉を望んだ仁祖の選択後、ラストシーンでキム・サンホンは、自害するところで終わります。
それだけの強い意志で挑んだ覚悟の進言だったことも事実のようです。
ただし、この自害は、すぐに発見され、自殺未遂に終わっています。
そして、翌年には一旦隠居するものの、1639年清の人質となっています。
礼曹判書キム・サンホンの子孫
礼曹判書キム・サンホンは、子宝に恵まれず、一人息子を亡くし、甥を養子にしていました。
そして、その養子の息子の子孫から、後の安東金氏出身の3人の王妃を出すことになるのです。
・23代王純祖の正室純元王后
・24代王憲宗の正室孝顕王后
・25代王哲宗の正室哲仁王后
(サイト内記事⇒『安東金氏一族の勢道政治が始まった経緯を分かりやすく解説!』)
吏曹大臣チェ・ミョンギルのその後
三田渡の盟約の後、吏曹大臣チェ・ミョンギルは、世子や王子らとともに瀋陽まで連行されましたが、
後に、国に帰り、1642年に領議政の地位に就きましたが、5年後、亡くなりました。
音楽は坂本龍一
映画「ラストエンペラー」で、坂本龍一の音楽に魅了されていた監督は、ぜひ、坂本龍一に音楽を作曲してもらいたいと頼み込んだそうです。
坂本龍一らしい現代的なシンフォニーに、韓国の伝統音楽を取り入れた重厚なサウンドで物語を盛り上げます。
まるで、レクイエムのように、哀しみの情景が目に浮かぶようなBGMなど、ぜひ、音楽もじっくり聴いてもらいたい思います。
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